心房細動アブレーションについて

 

1. 心臓の活動

心臓は全身に血液を送りだすポンプです。心臓は4つの部屋(左右の心房と心室)で構成され、それぞれの部屋が拡張と収縮を繰り返して、血液を循環させます。心臓全体の動きは「刺激伝導系」というシステムによって制御されます。
刺激伝導系の開始部位は「洞結節」で、ここから心臓全体に命令が出ます。洞結節を発した命令は心房全体に広がった後に「房室結節」へ伝わります。房室結節は命令を心室へ伝え、最終的に心臓全体が収縮します(右図)。

これらの命令の発生や伝達が異常な状態を「不整脈」といいます。心房細動も不整脈の一種です。

心臓の活動

2. 心房細動の病態

心房細動とは心房の各所が無秩序に興奮し、あるいは心房の一部から高頻度に異常な興奮が出現している状態です(右図)。

心房細動になると、多くの場合は脈が速く、かつ不規則になり、動悸や胸部不快感などの「自覚症状」が出現することがあります。
また、心房の正常な動きが失われるため、心臓の機能が約20%低下します。そのため、息が上がりやすくなる、疲れやすくなるなどの「心不全」症状が現れることがあります。重症化すると肺水腫という重篤な状態に陥ることもあり、生命に関わることもあります。特に心疾患を有する患者や高齢者では心不全が生じやすくなります。

心房細動の病態

さらに心房内に血栓(血液の塊)が生じやすくなり、これが心臓の外に流出すると「血栓塞栓症」を惹き起こします。血栓塞栓症のうち、最も多いのが脳梗塞で、心房細動ではと脳梗塞の危険性が5倍に上昇します。
心房細動に合併する脳梗塞は半身麻痺などの重度の障害を残しやすく、寝たきりや要介護の原因となりやすいことが知られています。

初期の心房細動の大部分は肺から左心房に流入する「肺静脈」の内部から発生することが分かっています。年月が経つと、肺静脈と隣接する心房組織からも心房細動が発生します。さらに時間が経過すると心房全体が心房細動の発生源となり、ここまで進行すると心房細動が正常の脈に戻ることは期待できません。

3. 心房細動の治療法

心房細動の治療法は3種類あります。「薬物治療」、「カテーテル・アブレーション」、「外科治療」です。

薬物治療
  • 主に「脈を遅くする薬剤」「心房細動の出現を抑制する薬剤(抗不整脈薬)」「脳梗塞予防薬(抗凝固薬)」によって、症状の軽減、心不全・脳梗塞のリスク低下を図ります。
  • 心房細動自体を治すものではなく、原則として治療は永続的に継続します。
  • 薬剤の副作用として、出血(脳出血・消化管出血)、心不全、新たな不整脈の出現などがあります。治療が長期になるほど、これらの問題も生じやすくなります。
カテーテル・アブレーション
  • 心房細動の原因となることが多い肺静脈を心房から電気的に隔離します(肺静脈隔離術)。肺静脈以外の隔離・通電を追加することもあります。
  • 心房細動を根治できる可能性があります。
  • 合併症として心穿孔・血管穿孔が約1%の頻度で発生します。外科手術を要することや、稀ですが死亡例もあります。その他の合併症については後述します。
外科手術
  • 心房細動の原因となる部分を切開して再び縫い合わせます。
  • 心房細動を根治できる可能性がありますが、身体への負担が大きく、現在では他の理由で外科手術が必要な場合に、付随的に行なわれることがほとんどです。
  • 身体への負担の少ない外科治療として、胸腔鏡下に肺静脈隔離を行なう方法、血栓が形成されやすい左心耳を胸腔鏡下に切除する方法もあります。

どの治療がよいかは、患者様一人一人で異なります。私共は各種の検査を行い、その方に最適な治療法を選択し、お勧めしています。

4. カテーテル・アブレーションの方法・有効性

治療は心臓カテーテル治療専用の血管造影室で行ないます。
全身麻酔・局所麻酔後、右頚部・両側鼠径部から合計6本のカテーテル(細い管のことをいいます)を挿入し、心臓の各部位に設置します(下図左)。
肺静脈ー左房接合部に治療用カテーテルの先端を接触させ、500キロヘルツの高周波(電子レンジで使用されるのと同じもの)を20~50Wの出力で流すと、カテーテルに接触している2~3mm四方の心房筋が50~60℃前後まで熱せられ、傷害されます。これを繰り返して肺静脈と左心房の間の電気的連続性を遮断します(肺静脈隔離)。当科では左側の2本の肺静脈と右側の2本の肺静脈をまとめて隔離します(下図右)。
治療が終了したら全カテーテルを抜去、圧迫止血を行い、麻酔を終了します。帰室後3時間は絶対安静(手のみ動かせます)、その後は看護師の援助の下で体位変換可能です。飲食は寝た姿勢のままで摂っていただきます。安静解除は翌朝になります。

発作性心房細動では約80~90%が治癒します。ほとんどの方が1回の治療で終了しますが、2回目の治療、稀ながら3回以上の治療を要することもあります。
持続性心房細動では約60~80%が治癒します。ただし、2回以上の治療を要する場合が多くなります。
慢性心房細動では成功率は50%以下で、通常は3回以上の治療を要します。
一般にはアブレーション後6ヶ月程度で治療を終了しますが、数年後に再発することがあります。

カテーテル・アブレーションの方法・有効性

5. カテーテル・アブレーションの合併症・頻度

心タンポナーデ: 心臓の壁に穴が開いてしまい(心穿孔)、血液が漏れだして血圧・心拍数が不安定になった状態です。頻度は1~2%です。多くの場合、細いチューブを心臓の傍に挿入して、血液を吸い出す(ドレナージといいます)と、1~2日で自然閉鎖します。稀に外科手術を要することがあり、穴が大きい場合や食道まで穿孔した場合(心房食道瘻)には死亡する可能性があります(頻度は0.1%未満)。
塞栓症: 心房細動では血栓が生じやすく、治療中に元々存在していた血栓が心臓外へ流出して脳梗塞などの塞栓症を起こすことがあります。また、カテーテル表面に血栓が形成され、塞栓症を起こすこともあります。さらに治療中に空気が紛れ込んで塞栓症を発症することもあります。症状のある脳梗塞発症の頻度は約1%と言われています。
出血・血腫: 塞栓症の予防のために治療中は抗凝固薬を大量に使用します。そのため、カテーテルを挿入した部位で内出血や血腫(血液の塊)が生じますが、2~3ヶ月で自然消失します。ただし血腫が段々大きくなる場合には循環器外来まで御連絡ください。
血管損傷・弁損傷: 稀ですが外科的な修復を要する場合があります。
肺静脈狭窄: 稀ですが数週間~数ヶ月後に肺静脈が細くなって息切れなどの症状が出ることがあります。
房室ブロック・洞不全: 治療後に徐脈(脈が遅くなること)が生じ、ペースメーカー治療を要することがあります。
横隔神経麻痺・迷走神経麻痺・食道潰瘍: 稀ですが左心房の後側に位置している横隔膜や胃に繋がる神経・食道が傷害されて、横隔膜挙上・胃拡張・食道炎が生じます。多くは一過性です。食道炎の予防のため抗潰瘍薬を服用していただきます。
心膜炎: 心臓の表面を覆っている心膜に炎症を生じることがあります。胸が重く感じる・チクチクする等の症状が出現します。通常は数日で自然軽快します。
放射線障害: レントゲン線被爆により放射性皮膚炎や筋肉潰瘍などが生じることがあります。ただし、最近ではレントゲンの使用時間は非常に短く、発生はきわめて稀です。

6. 退院後

1ヶ月に1回程度外来受診していただきます。外来受診時にはまず心電図検査を受けてから外来にお越し下さい。日常生活上の制限はありませんが、処方された内服薬はきちんと服用して下さい。
治療後約2ヶ月間は約40%の方で心房細動が出現しますが、これは治療の成功・不成功とは無関係です。治療がうまくいったかどうかは、少なくとも3ヶ月たってから24時間~7日間の長時間記録心電図検査などで判定し、2回目の治療が必要かどうか決定します。

7. 費用について

健康保険の適応ですが、それでも数十万円の自己負担が生じますので、高額療養費制度を利用することをお勧めします。詳細は御自身が加入している健康保険組合へお問い合わせ下さい。